相続債務としての借入金の効用
- 税の西田
- 7 日前
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Q 質問
相続税の節税にと借入を伴った貸家の取得を勧められています。建築費が高騰していることから建築資金の2億円は返済期間を30年間とし、元利均等返済の融資を受ける計画です。貸家経営は相続対策になりますか。意思決定にあたって留意すべきことはありますか。
A 回答
土地利用の基本
土地を持つ者と持たざる者とがその取り柄を交換し合って事業が成り立ち、生活を豊かにする時代がやってきた。土地は財産だとする土地神話が崩れて40年。取得・保有・譲渡の各段階で課税を強化したことと相まって、土地は財産でないことが分かった。土地に収益性と換金性がなければ財産とはいわないということです。土地を所有していると固定資産税と都市計画税が課税され、30年ごとに発生する相続ではおよそ20%の相続税が想定されます。これらを年に換算すると毎年2.3%の保有コストがかかることになる。次の相続まで遊休地にしておくと土地はおよそ70%目減りする勘定です。調整区域の農地は農地として、市街化区域の農地は宅地として活用することが経済的であり、土地税制の基本にも適っています。
貸家経営の効果
相続を控えて遺産の承継、相続税の納税、相続税の節税対策を商品にした提案が増えてきました。なかでも、所有する土地の上に建物を建築して賃貸する貸家経営は、借り手の経済性とともに節税商品として根強い人気があります。2億円の資金を借り入れて建物を取得すると相続税評価(固定資産税の評価額×1)はおよそ1億円になります。これを他人に貸し出すと借家権(30%)がつくことから7千万で評価され、相続財産は1億3千万円の評価減になります。さらに5千万円の敷地なら貸家建付地として750万円の評価減がとれます。相続税の実効税率(相続時の総額÷正味財産額)を20%とすると、節税額は2,750万円になる勘定です。
原本を回収する
蓄えで生きる時代ですから原価や生活費は安いほうがいい、生活や仕事に必要な物は借りたほうが割安であることも分かってきた。とはいえ相続財産の30~40%に相当する借入を伴う事業投資だけに、必ず元本を回収して収益を見込む必要があります。良質な居住区間としての商品価値を保つこと、生活環境が整っていること、できれば駅近の立地が望ましい。家賃は公共料金ですが、何よりも投資額の6%以上の賃料が必要な計算になる。貸家経営における固定資産税、修繕費、保険料、借入利息、管理諸費用を賄い、減価償却費を計上して黒字にならなければ原本を回収したことにはならないのです。
家賃収入が返済原資
借入金の返済財源は減価償却費と事業利益です。減価償却は投下資本の回収計算ですから損失が発生しない限り投資額は確実に回収されるということです。軽量鉄骨造の共同住宅の法定耐用年数は27年ですから、借入期間30年の元金をコツコツ返済し利息を払っても毎年資金の余剰が生まれるはず。この余剰資金は施設の改善や次なる投資の原資になるわけです。家賃と地価は連動しています。家賃が下がるということは地価も下がるということです。人口減少リスクを念頭に家賃の変化が起きたら必要な対策を講じなければなりません。
相続による債務の承継
貸家経営の節税効果は相続税の総額をもとに算定することから、借入によって建物を取得し貸し出す効果は最大値です。実際の相続税の申告にあたっては、相続人ごとの取得財産と承継した債務をもとにして計算します。取得財産より多額の借入金を承継する相続人の取得財産はマイナスになり、超過した債務は切り捨てられ、借金効果は減殺されることになります。投資計画とともに想定される均分相続に備えて、相続財産の承継計画を立てておく必要があります。
(『広報ほくさい』・『JA埼玉みずほ』2025年4月号掲載)
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